「古くなった設備を最新に入れ替えたい。ついでに補助金も使えないかな」
このようなご相談、実務ではとても多いです。
ただ、ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)は、「生産性向上に資する革新的な新製品・新サービス開発(や海外需要開拓)の取組を支援する制度」となっています。
つまり、同じ設備投資でも――
- 「更新したい」 だけだと弱く見えやすい(→ほぼ不採択)
- 「更新によって、新しい価値を生む」 まで設計できると強くなる
ここが採択・不採択を分けるポイントになりがちです。
この記事では、単なる買い替え投資を、審査で伝わる「採択される投資テーマ」に変換する方法を、現場向けにまとめます。
1. なぜ「買い替え」だけだと弱く見えるのか
審査側が見ているのは、ざっくり言うと次の流れです。
課題(現状) → 投資(取組) → 新しい提供価値 → 効果(数字)
「老朽化したので更新」だと、流れがこうなりがちです。
課題(老朽化) → 投資(更新) → 効果(現状維持or生産性向上?)
下段の流れは、制度趣旨(革新的な新製品・新サービス開発等)と結びつきにくく、差が出にくい。
なので、更新を“目的”にせず、“新しい提供価値の手段”として位置づけるのがコツです。
2. 採択される投資テーマ設計「5ステップ」
ここからが本題です。難しいことはせず、順番通りに丁寧に詰め進めれば採択に近づきます。
ステップ1:顧客の困りごとを書き出す
まずは社内都合(設備が古い)ではなく、顧客の困りごとを書き出します。
例
- 納期が読めず、発注をためらう
- 仕上がり品質がブレる
- 小ロット対応ができない
- 検査証明が出せず、大手に入れない
ここが曖昧だと、どんな設備を入れても「なんとなく良さそう」で終わります。
ステップ2:「提供価値の変化」を“言い切り”にする
次に、投資で何が変わるかを、顧客目線で言い切ります。
概要(テンプレート)
- 変更前:〇〇が△△で、□□ができない
- 投資後:〇〇を△△に変え、□□を可能にする
- 顧客価値:その結果、顧客の◆◆を解決する
例
- 変更前:検査に時間がかかり、短納期が受けられない
- 投資後:検査工程を自動化し、短納期対応を商品化する
- 顧客価値:緊急案件でも発注できる
ステップ3:新規性は「技術」だけでなく「提供の仕方」で作れる
「革新的な新製品・新サービス開発」とは
革新的な新製品・新サービス開発とは、顧客等に新たな価値を提供することを目的に、自社の技術力等を活かして新製品・新サービスを開発することをいいます。
ものづくり補助金の公募要領より引用
本補助事業では、単に機械装置・システム等を導入するにとどまり、新製品・新サービスの開発を伴わないものは補助対象事業に該当しません。
また、業種ごとに同業の中小企業者等(地域性の高いものについては同一地域における同業他社)において既に相当程度普及している新製品・新サービスの開発は該当しません。
「革新的=最先端技術」と思われがちですが、実務では「提供の仕方(サービス設計)」で新規性を作れるケースが多いです。
事務局も“革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセス改善”の観点で審査しています。
新規性の作り方(例)
- 短納期化:納期を商品価値にする
- 小ロット化:受注単位を変えて新しい顧客層へ
- 品質保証:検査データを出し、取引先条件を満たす
- 工程統合:分断工程を一気通貫にして再現性を上げる
- 新サービス化:設備導入をきっかけに新メニューを作る(商業・サービス業でも有効)
ステップ4:効果指標は「3つ」で十分(増やしすぎに注意)
効果は多いほど良さそうに見えますが、審査では論点が増えると説明が薄くなります。
おすすめはこの3つに絞ること。
- 生産性:時間/件、件数/人、リードタイムなど
- 付加価値:粗利、単価、リピート率、外注費削減など
- 品質:不良率、再作業率、クレーム率など
ポイントは「導入前の実測値」を置くこと。導入後の目標が“希望”ではなく“計画”になります。
ステップ5:実現性は「運用設計」で決まる(設備だけでは足りない)
ものづくり補助金は、事業計画の達成、要件を満たすことが前提です。
設備の説明だけで終わらず、設備導入後の運用についても必ず触れてください。
最低限、以下をセットで書くと実現性が上がります。
- 誰が使うか(担当者)
- どう回すか(手順書・教育計画)
- どう維持するか(保守・点検)
3. 「買い替え投資」を採択テーマに変換する具体例
例1:製造業(加工機の更新)
- 買い替え:古い加工機を最新に更新
- 変換後:高精度加工+短納期対応を商品化し、新しい顧客層へ。段取り時間を短縮し、月間処理能力を増やす。
例2:サービス業(検査機器・査定機の導入)
- 買い替え:検査(査定)機を導入して早くする
- 変換後:査定の標準化+証明で、顧客の不安を解消し、単価と回転率を上げる。検査記録を残し、品質保証をサービス化する。
例3:受託型ビジネス(業務システムの更新)
- 買い替え:古いシステムを新しくする
- 変換後:受注〜納品の情報を一気通貫にし、ミス削減+納期短縮で高付加価値案件へ。属人化を減らし、再現性を作る。
4. 典型NG(ここで落ちやすい)
- 設備スペックの説明が中心で、顧客価値に繋がっていない
- 効果が「効率が上がるはず」などの表現で数字がない
- 市場が広すぎて「誰向けか」が不明
- 体制が代表1人で、繁忙期に回らない(人員体制は十分に考慮してください!)
- 新規性が「新しい機械=革新」となっている(価値が描けていない)
5. ざっくりこんな感じで膨らませてください
課題
現状、〇〇工程に□□分を要し、△△(短納期・品質保証・小ロット対応等)が困難である。
投資・取組
本事業では、〇〇(設備/システム)を導入し、工程を◇◇化(自動化/標準化/統合)する。
価値・効果
その結果、リードタイムを□□%短縮し、月間処理件数を〇件増やすことで、新サービス(新提供価値)として提供する。
これで、制度の趣旨(革新的な新製品・新サービス開発等)を説明できるかと。
6. よくある質問
Q1. 既存設備の入替でも申請できますか?
できます。ただし「入替で何が変わり、新しい提供価値になるか」を、効果指標とセットで示す必要があります(制度概要は革新的な新製品・新サービス開発等)。
Q2. 何から着手すべき?
最短は、①顧客の困りごと→②提供価値の変化→③効果指標(3つ)→④見積・運用設計、の順です。
見積りは申請時には不要ですが、経費が現実的な金額とかけ離れていると、不採択に繋がりますのでできれば見積りを取得してください。
Q3. 公募要領はどこを見ればいい?
最新版は公式サイトで締切ごとに公表され、改訂もあり得るため、申請直前に最新版と改訂履歴を確認してください。
7. 申請前セルフチェック(10項目)
- 顧客の困りごとが1行で言える
- 提供価値の変化が言い切れている
- 新規性が「技術」ではなく「提供の仕方」でも説明できる
- 効果指標が3つに絞れている
- 導入前の実測値がある
- 導入後の目標が数字で書ける
- 誰が回すか(体制)が描けている
- 手順書・教育・記録(運用設計)がある
- 経費が現実的か?(見積りはあるか?)
- 公募要領の最新版・改訂履歴を確認済み
まとめ:採択されるのは「設備」ではなく「新しい価値の設計」
ものづくり補助金は、革新的な新製品・新サービス開発等を通じた生産性向上の取組を支援する制度です。
だからこそ、買い替え投資でも、「顧客価値の変化 → 効果(数字) → 運用設計」まで一気通貫で描ければ、強い申請になります。