「賃上げすれば補助金に有利」は本当か?
補助金申請の場で、こんな話を耳にすることが増えています。
「賃上げをすれば補助金で加点されると聞いた」「賃上げをすると補助率が上がるらしい」「でも、本当にそれだけで採択されるのか?」
結論から言いますと、賃上げと補助金の組み合わせは確かに強力です。
補助金によっては必須となっている場合もあります。
ただし、仕組みを正確に理解しないと、後から想定外の出費や補助金の返還を求められるリスクもあります。
この記事では、主要補助金における賃上げ関連の優遇措置を正確に整理し、「本当にお得かどうか」を実務の観点から正直に解説します。
なぜ補助金で賃上げが重視されるのか
政府は近年、中小企業の「持続的な賃上げ」を最重要政策の一つとして位置づけています。
最低賃金の引上げペースが加速する中、中小企業が設備投資で生産性を高め、その成果を従業員への賃金として還元する
──この好循環を補助金で後押しする仕組みが強化されています。
つまり、補助金の賃上げ優遇は単なる特典ではなく、「賃上げを約束した事業者を優先支援する」という国の明確な意図が背景にあります。
言い換えれば、「賃上げをしない事業者には補助金をあまり出したくない」傾向があります。
補助金をもらう側も、そのルールを正確に理解した上で申請する必要があります。
【ものづくり補助金】賃上げ関連の優遇措置
ものづくり補助金には、賃上げに関連した優遇措置が複数設けられています。
それぞれ条件・効果・リスクが異なります。
①大幅賃上げ特例:補助上限額が最大1,000万円引き上がる
内容:
以下の両方の目標値を設定した事業者は、補助上限額が従業員規模に応じて100〜1,000万円引き上げられます。
- 給与支給総額の年平均成長率:+6.0%以上(基本要件+2.0%)
- 事業所内最低賃金:最低賃金+50円以上(基本要件+30円以上)
メリット:
通常の補助上限(750万〜2,500万円)に加えて最大1,000万円の上乗せが可能。
大型設備投資を検討している事業者には魅力的な特例です。
この特例の最大の注意点は、目標を達成できなかった場合に補助金の一部返還を求められる点です。
給与支給総額と事業所内最低賃金のどちらかが未達成でも返還の対象になります。
事業計画期間(3〜5年)を通じて達成し続ける必要があるため、景気変動や人員変動のリスクを十分に織り込んだ上で判断してください。
「給与支給総額」です、各人の給料を一律アップではありませんので、採用すれば達成することも可能です。
一方、従業員が減った場合に注意してください。(この場合は各人の給与で計算する場合もあります)
②最低賃金引上げ特例:補助率が1/2から2/3に引き上がる
内容:
最低賃金の引上げに取り組む事業者(最低賃金近傍で雇用している従業員が全従業員の30%以上)に対し、補助率が通常の1/2から2/3に引き上げられます。
メリット:
例えば1,500万円の補助金申請の場合、補助率1/2なら補助額750万円ですが、2/3なら1,000万円。同じ投資でも250万円多く補助を受けられる計算です。
要件の確認ポイント:
2024年10月〜2025年9月の期間で3ヶ月以上、最低賃金以上・改定後最低賃金未満で雇用している従業員が全従業員の30%以上いること。対象となる事業者は、確認書(指定様式)と賃金台帳の準備が必要です。
③賃上げ加点:審査で優遇される
内容:
2025年7月と申請直近月の事業場内最低賃金を比較し、63円以上の賃上げを実施した事業者が加点対象となります。
メリット:
加点の申請はチェックボックスへの入力+賃金台帳の提出で完了。比較的取得しやすい加点の一つです。
要件の確認ポイント:
証憑として2025年7月分・申請直近月の最低賃金近傍従業員の賃金台帳(全従業員分)をPDF提出する必要があります。書類を整備していないと申請できないため、日頃から賃金台帳を適切に管理しておくことが前提となります。
④最低賃金近傍雇用加点:最低賃金引上げで困っている事業者向け
内容:
最低賃金の引上げにより、最低賃金近傍で雇用している従業員が全従業員の30%以上いる事業者に対して加点されます。
これは「賃上げに積極的な事業者」だけでなく、「最低賃金引上げの影響を強く受けている事業者」も加点対象とする、現実的な支援策です。
【小規模事業者持続化補助金】賃上げ関連の加点
持続化補助金では、加点審査において賃上げ関連の加点が設けられています(重点政策加点・政策加点からそれぞれ1種類を選択)。
| 加点の種類 | 内容 | 選択区分 |
|---|---|---|
| 赤字賃上げ加点 | 賃金引上げ枠で申請する赤字事業者 | 重点政策加点 |
| 最低賃金近傍雇用加点 | 最低賃金近傍で一定割合以上雇用している事業者 | 重点政策加点 |
| 賃上げ加点 | 事業終了時点で事業場内最低賃金が地域最低賃金+30円以上の賃上げ | 政策加点 |
賃上げ加点は「申請時に宣言するだけ」ではありません。
事業終了時点での実績で判断されます。
賃上げ加点を取得して採択されたにもかかわらず、事業終了後に賃上げを実現できなかった場合は、加点の取り消しや補助金の一部返還となる可能性があります。
賃上げ×補助金で「本当に得か?」を考える
賃上げによる補助金の優遇をメリットとして享受するためには、賃上げが経営的に持続可能であることが大前提です。
以下の3つのポイントで自社の状況を確認してください。
① 賃上げ後の人件費増加に耐えられる収益構造があるか
賃上げは一度実施すると、その水準を下回るのは難しくなります。
補助金による設備投資の効果が出るまでの期間も、賃上げ後の人件費を維持できるキャッシュフローが必要です。
特に従業員が多い事業者は事前に算定してください。
② 3〜5年後も賃上げ目標を維持できるか
ものづくり補助金の大幅賃上げ特例は、3〜5年の事業計画期間を通じた達成が求められます。
採択時の事業環境が維持されるとは限らない中で、強気な目標を設定すると返還リスクが生じます。
現実的な目標設定が最重要です。
③ 賃上げの証憑書類を適切に管理できるか
賃金台帳、雇用契約書、労働条件通知書など、賃上げを証明するための書類を正確に整備・保管することが求められます。
書類の不備が発覚した場合、加点が取り消される可能性があります。
法定帳簿ですので、しっかりと管理することをおすすめします。
まとめ:賃上げ×補助金は「使いこなせる人」が得をする
「賃上げすれば補助金に有利」は事実です。
しかし、ルールを正確に理解した上で使いこなせる事業者だけが恩恵を受けられるのも事実です。
- 補助率が上がる → 同じ設備投資でより多くの補助を受けられる
- 補助上限が上がる → より大きな設備投資が可能になる
- 審査で加点される → 採択の可能性が高まる
これらのメリットは魅力的ですが、未達の場合の返還リスク・書類管理の手間・賃上げの持続性というコストも存在します。
賃上げを補助金申請のためだけに宣言するのではなく、「経営の実力として賃上げできる体制を作ったうえで、補助金の優遇を活かす」という順序で考えることが、長期的に補助金を使いこなす事業者の共通点です。
補助金戦略について、ご検討される場合は、ぜひ一度ご相談ください。
お客様の実情を踏まえた最適な申請戦略を、一緒に考えます。
認定支援機関×行政書士
お問い合わせ・ご相談を承っております。
Tel.03-6457-3276
[営業時間]9:00 – 18:00 土日祝日も対応可
✉ info@iij-office.com
原則、2日以内に返信いたします
