「事業計画書には自信があるのに、なぜか不採択になった」
そんな経験のある経営者の方は少なくないはずです。
補助金審査で見落とされがちな要素、それが決算書です。
どれだけ素晴らしい事業計画でも、「この会社、本当に補助事業を最後までやり遂げられるのか」と財務面で疑問を持たれれば、採択は遠のきます。
一方で、決算書の内容が悪くても採択されている会社は確実に存在します。
ポイントは、自社の決算書をどう見せ、どう説明するかです。
本記事では、補助金審査で決算書のどこが見られているのか、そして決算書が良くない場合にどう対応すべきかを、補助金申請を支援してきた認定支援機関、行政書士が解説します。
なぜ補助金審査で決算書が重要なのか
補助金は苦しい事業者にお金を支給するものではありません、事業発展を資金面で支援(補助)するものです。
そして、税金が原資です。
国としては、補助金を渡した会社が事業を完遂できず途中で破綻すれば、税金が無駄になります。
そのため、審査では「この会社は補助事業を最後までやり遂げられる財務体力があるか」が必ずチェックされます。
経済産業省の内部検討資料でも、補助金交付申請時の財務情報を確認する目的について「①倒産する危険性が低い企業であるか」「②補助金の裏負担が可能である企業であるか」の2点を確認するためと整理されています。
さらに、補助金は原則として後払い(精算払い)です。
設備投資の資金は一旦自社で立て替える必要があり、その資金繰りが回らなければ事業は遂行できません。
決算書はその「立て替えられる体力」を判断する材料になります。
審査員が決算書で見る3つのポイント
ポイント① 売上・利益の推移:事業の成長性と継続性
審査員は1期分だけでなく、複数期分の決算書を比較して推移を確認します。(1期分のみを提出する場合もありますが)
具体的には次の項目です。
- 売上高は伸びているか、横ばいか、減少しているか
- 営業利益・経常利益は黒字か赤字か、その推移はどうか
- 売上の急増・急減があれば、その理由は説明できるか
3期連続赤字でも、必ずしも不採択になるわけではありません。
ただし、その場合は事業計画書のなかで「なぜ赤字なのか」「補助金を活用してどう改善するのか」を明確に説明することが求められます。
審査員は数字だけを見ているのではなく、「数字の裏側にあるストーリー」を読み取ろうとしています。
ポイント② 現預金残高:手元資金の余力
現預金は、企業の体力をもっとも端的に示す数字です。
審査員は次のような観点でチェックします。
- 売上規模に見合う水準の現預金があるか
- 現預金残高が減少傾向になっていないか
- 預金ではなく「現金」が不自然に多くないか
補助金は数百万円〜数千万円規模の投資が前提となることが多く、いったん自社で立て替える必要があります。
手元資金が乏しいと、補助事業の遂行可能性を疑われます。
「採択されたのに資金繰りが回らず、補助事業を断念した」というケースも実際にあります。
申請前に、自社の資金繰り計画を冷静に確認することが重要です。
ポイント③ 雑勘定(仮払金・代表者貸付金など)
決算書には、「仮払金」「短期貸付金」「代表者貸付金」などの雑勘定が記載されていることもあります。
これらは審査においてネガティブに見られがちです。
特に代表者への貸付金は、金額や内容によっては問題視されることがあります。
会社の現預金が代表者個人へ流れていると見なされ、財務管理の透明性に疑問を持たれるためです。
(補助金の審査だけではなく、金融機関からの融資でも厳しくチェックされます)
決算書を整えるという観点からも、雑勘定はできるだけ整理しておくことが望ましいです。
決算書が良くない場合の対応策【ここが重要?】
ここからが本記事の本題です。
「うちの決算書は赤字続きだから、補助金は諦めるしかない」と思い込んでいる経営者の方が非常に多いのですが、それは誤解です。
決算書の状況別に、具体的な対応策を解説します。
ケース① 赤字決算が続いている場合
赤字決算であっても採択される会社は多数あります。
審査員が知りたいのは、「赤字の原因は何か」「そこから抜け出す道筋があるか」の2点です。
対応の鉄則:赤字の原因を構造的に説明する
赤字には必ず原因があります。
外部要因(市場の変化、原材料高騰、人件費上昇、コロナ・物価高の影響など)と、内部要因(過剰投資、固定費の重さ、収益性の低い事業の継続など)を整理し、事業計画書のなかで明確に書きます。
たとえば次のような書き方が有効です。
- 「直近2期の赤字は、原材料費の30%上昇と、主要販路だった○○の縮小が主因です」
- 「自社では価格転嫁の交渉と、新販路の開拓に着手しており、本補助事業はその一環です」
「赤字=経営が悪い」のではなく、「赤字には外部要因があり、それを乗り越えるために投資する」という構造を見せることが重要です。
改善の道筋を「数値」で示す
事業計画書では、補助事業によってどう収益が改善するかを具体的な数値で示します。
- 補助事業による売上増加見込み額
- 粗利率の改善幅
- 投資回収期間
「なんとなく良くなる」ではなく、「○年目に黒字転換、○年目で投資回収完了」と書けるかどうかが採択の分かれ目です。
ケース② 債務超過に陥っている場合
純資産がマイナスになっている債務超過は、補助金審査で最も厳しく見られる状態です。
ただし、ここでも諦める必要はありません。
対応の鉄則:「一時的な債務超過」であることを示す
債務超過には次の2種類があります。
- 構造的な債務超過:恒常的に赤字が続き、自己資本がマイナスになっている状態
- 一時的な債務超過:大規模投資・コロナ等の特殊要因により一時的にマイナスになっている状態
審査員に伝えるべきは、自社が「一時的な債務超過」であることです。
たとえば次のように書きます。
- 「○年に実施した△△への大型投資により一時的な債務超過となっているが、設備の稼働率は目標を上回っており、○年で解消見込み」
- 「コロナ禍の特殊要因により債務超過に陥ったが、直近半年では月次黒字化を達成しており、○年での解消を見込む」
増資や代表者借入の資本性転換を検討する
申請前に対応できる場合は、増資や代表者からの借入金の資本性ローンへの転換などで自己資本を改善することも有効です。
顧問税理士と相談のうえ、検討してみてください。
ケース③ 現預金が少ない場合(資金繰り難)
補助金は後払いのため、手元資金がないと採択されても事業を実行できません。
審査員もこの点をかなり厳しく見ます。
対応の鉄則:「つなぎ融資」の確保を申請段階で示す
補助金採択を見越して、金融機関と「つなぎ融資」の話を進めておくことが極めて重要です。
事業計画書のなかで、次のように記載できると説得力が増します。
- 「本補助事業の自己負担分○○万円は、メインバンク○○銀行と協議済みのつなぎ融資(極度額○○万円)にて対応予定」
- 「採択後、速やかに正式申込を行う段取りで合意済み」
つなぎ融資の準備は、補助金申請と並行して必ず進めるべき作業です。
メインバンクからの融資が難しい場合は、日本政策金融公庫の活用も検討に値します。
補助事業に紐づいた融資制度や、創業期向けの融資など、選択肢は意外と多くあります。
認定支援機関は金融機関とのパイプを持っていることが多いため、相談のうえ進めると効率的です。
決算書の現預金がたまたま少なく、申請前には現預金が十分にある場合は、金融機関の残高証明書を取得し、申請時に添付するのも有効です。
ケース④ 代表者貸付金が多額にある場合
中小企業の決算書でよく見かけるのが、多額の代表者貸付金です。
これは「会社のお金が社長に流れている」と見なされ、財務管理の透明性に疑問を持たれます。
対応の鉄則:可能な範囲で残高を減らす
決算期までに、代表者貸付金の残高を減らす努力をしましょう。
具体的には次のような方法があります。
- 役員報酬の一部を貸付金返済に充てる
- 個人資産(不動産・有価証券など)を売却して返済する
- DES(債務の株式化)により資本へ振り替える
ただし、これらはすべて税務上の論点があるため、必ず顧問税理士と相談のうえ実施してください。
計画書のなかで「使途と返済計画」を説明する
すぐに残高を減らせない場合は、事業計画書のなかで貸付金の発生経緯と今後の返済計画を率直に説明することも一つの方法です。
審査員は「ごまかし」を最も嫌います。
正直に説明することが、結果として高評価につながります。
ケース⑤ 売上が急減している場合
直近期で売上が急減している会社も、対応次第で採択は十分可能です。
対応の鉄則:「外部要因」と「対応策」をセットで示す
コロナ禍、原材料高騰、主要取引先の倒産など、急減には必ず原因があります。
「自社の努力不足」ではなく、「外部要因による一時的な落ち込み」であることを示し、その回復策として補助事業を位置づけます。
たとえば次のような書き方です。
- 「主要取引先の○○が事業縮小したため、売上が前期比△△%減少した」
- 「これを受け、新規顧客層の開拓が急務となり、本補助事業によるマーケティング投資を計画した」
直近の月次推移を補足資料として添付する
決算書は1年単位ですが、申請時点では数ヶ月経過している場合も多いです。
直近の月次試算表を添付し、「直近では回復傾向にある」ことを示すと説得力が増します。
これは公募要領で求められていない場合でも、補足資料として有効です。
決算書が悪い場合の事業計画書の「型」
決算書に課題がある会社が事業計画書を書く際は、次の構成が有効です。
【型】現状認識 → 原因分析 → 改善策(補助事業) → 数値計画 → 資金計画
- 現状認識:決算書の現状を正直に開示する
- 原因分析:なぜそうなったのか、外部要因と内部要因を整理する
- 改善策:補助事業によって何が変わるのかを具体的に書く
- 数値計画:売上・利益・資金繰りの3年計画を数字で示す
- 資金計画:補助金以外の資金調達(つなぎ融資など)を含めて見せる
この型に沿って書くだけで、審査員に「この経営者は自社を客観視できている」「改善への道筋がある」と評価されやすくなります。
申請前にやっておきたい3つの準備
準備① 直近3期分の決算書を見直す
申請の前に、直近3期分の決算書をご自身で読み返してみてください。
(補助金によっては2期分の決算書を求める場合もあります)
売上・利益の推移はどうなっていますか。
現預金は十分な水準を保てていますか。
数字を把握していないまま申請すると、面談(オンライン審査)が導入された補助金で質問された際に答えられないリスクがあります。
経営者として自社の決算書を「自分の言葉で説明できる」状態にしておくことが、審査でも金融機関対応でも最大の武器になります。
準備② 雑勘定や代表者貸付金の整理
決算期末までに整理できるものは、整理しておくのが望ましいです。
特に代表者貸付金は、可能な範囲で返済して残高を減らしておくことで、決算書の見栄えが改善します。
ただし、無理な経費精算は税務調査リスクにつながるため、顧問税理士と相談のうえ慎重に進める必要があります。
準備③ 認定支援機関に客観的な視点で診てもらう
自分で自社の決算書を冷静に評価するのは、意外と難しいものです。
認定支援機関である行政書士・税理士・中小企業診断士などに第三者の視点で財務状況を診てもらうことで、補助金申請に向けた課題が明確になります。
まとめ
補助金審査では、事業計画書だけでなく決算書も必ずチェックされています。
審査員が特に見ているのは、売上・利益の推移、現預金残高、雑勘定の3つのポイントです。
ただし、決算書が良くないこと自体が不採択の理由になるわけではありません。
赤字でも、債務超過でも、資金繰りが厳しくても、原因を構造的に説明し、補助事業による改善ストーリーを示せれば採択のチャンスは十分にあります。
大事なのは「決算書を隠す」ことではなく、「決算書を踏まえて事業計画書を書く」ことです。
「自社の決算書は補助金審査でどう見られるか」「赤字でも申請できるか」が気になる方は、ぜひ一度、認定支援機関にご相談ください。
