はじめに

「DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めたいけど、何から手をつければいいか分からない」という声をよく聞きます。
大規模なシステム導入を想像して尻込みしている経営者も多いでしょう。

しかし、DXは必ずしも大掛かりなものである必要はありません。
むしろ、日々の業務で発生している「小さな非効率」を解消することから始めるべきです。

本記事では、多くの中小企業が抱える「紙とExcel地獄」を終わらせる最初の一歩として、「入力の一本化」について解説します。

なぜ「入力の一本化」なのか

中小企業の典型的な業務フロー

ある製造業の例を見てみましょう。受注から納品までの流れで、こんなことが起きています。

・営業が紙の注文書を受け取り、それを見ながら受注管理のExcelに入力します。
・その情報を製造部門に伝えるため、また別の作業指示書に手書きで転記します。
・製造完了後は出荷伝票を手書きし、経理部門がそれを見て売上台帳のExcelに入力します。
・最後に請求書を別のExcelで作成し、郵送します。

この流れで何度、同じ情報を入力しているでしょうか。
顧客名、商品名、数量、金額といった情報が、最低でも5回は入力されています。

二重入力が引き起こす3つの問題

時間のムダが最も分かりやすい問題です。
同じ情報を何度も入力する時間は、完全な非生産時間です。
従業員1人あたり1日30分の二重入力があれば、月間で約10時間、年間では120時間が失われます。

ミスの温床も深刻です。
人間が手作業で転記する以上、必ずミスは発生します。
数量の桁を間違える、商品コードを打ち間違える、顧客名を誤記するといったミスが、クレームや金銭的損失につながります。

情報の遅延も見過ごせません。
各部門が別々のExcelで管理していると、リアルタイムで情報共有ができません。
「今月の受注状況は?」と聞かれても、各担当者に確認して集計する必要があり、意思決定が遅れます。

ステップ1:入力ポイントの棚卸し

現状の可視化

まずは、自社で「どこで」「誰が」「何を」入力しているかを洗い出しましょう。
業務フローを描きながら、入力作業が発生するポイントに印をつけていきます。

具体的には、受注時、発注時、入荷時、製造指示時、出荷時、請求時など、各タイミングで何を記録しているかをリストアップします。
紙の帳票も含めて、すべての記録ポイントを把握することが重要です。

重複の発見

次に、それぞれの入力内容を比較します。
「顧客情報」「商品情報」「数量」「金額」など、同じ情報が何度も登場するはずです。

エクセルシートを作り、縦軸に入力ポイント、横軸に入力項目を並べると、どの情報がどこで重複しているかが一目瞭然になります。
この作業で、驚くほど多くの重複が見つかるでしょう。

優先順位の決定

すべてを一度に改善しようとすると失敗します。
まずは、最もインパクトが大きい部分から着手しましょう。

判断基準は3つです。入力頻度が高いか(月間100件以上など)、ミスが多発しているか、複数部門にまたがっているか。
これらに当てはまる業務フローから優先的に改善します。

ステップ2:「入り口」を決める

マスターデータの一本化

入力の一本化で最も重要なのは、「最初の入力をどこで行うか」を決めることです。
これを「入り口の一本化」と呼びます。

例えば受注業務なら、営業が最初に情報を入力する場所を「唯一の入り口」とします。その後の工程では、この情報を参照・流用するだけで、二度と入力しません。

システム選択の考え方

入り口を一本化するには、何らかのシステムやツールが必要です。
ただし、高額なシステムである必要はありません。中小企業なら、まずは以下の選択肢を検討しましょう。

Googleフォーム・Microsoft Formsは、無料または低コストで始められます。
入力フォームを作成し、回答を自動的にスプレッドシートに蓄積できます。
営業が外出先からスマホで受注入力する、といった使い方が可能です。

クラウド型業務ソフトは、月額数千円から利用できるものが増えています。
kintoneやfreee販売、楽楽販売などは、受注から請求までを一気通貫で管理でき、部門間での情報共有もスムーズです。

Excel・スプレッドシートの共有も、最初の一歩としては有効です。
ただし、複数人が同時に編集するとトラブルが起きやすいため、入力担当者を限定するなどのルールが必要です。

導入の判断基準

どのツールを選ぶべきかは、事業規模と予算次第です。

目安として、月間取引が50件未満ならGoogleフォームやExcel共有、50〜300件ならクラウド型業務ソフトの導入を検討すると良いでしょう。

重要なのは、「完璧なシステム」を求めすぎないことです。
まずは小さく始めて、不便な点があれば改善していく姿勢が成功の鍵です。

ステップ3:業務フローの再設計

新しいフローの構築

入り口を決めたら、その前後の業務フローを見直します。
従来は紙で受け取っていた情報を、どうやってシステムに入力するのか。入力した情報を、次工程でどう活用するのか。具体的な手順を設計します。

例えば受注業務なら、こんなフローになります。営業が顧客から注文を受けたら、その場でスマホからクラウドシステムに入力します。
製造部門は、システム上の受注一覧を見て作業指示を確認します。
出荷部門も同じ情報を見て出荷伝票を出力し、経理部門は自動的に請求書を生成します。

紙との併存期間を設ける

いきなりすべてをデジタル化すると、現場が混乱します。
最初の1〜2ヶ月は、紙とシステムの両方を使う「併存期間」を設けましょう。

この期間中に、システムの使い勝手を確認し、不具合があれば修正します。
従業員も新しい方法に慣れることができます。
併存期間が終わったら、明確な日付を決めて紙を廃止します。

ルールの明文化

誰が、いつ、何を入力するのか。入力ミスがあったときはどう修正するのか。
こうしたルールを明文化し、マニュアルを作成しましょう。

マニュアルは難しい言葉で書く必要はありません。
スクリーンショットを多用し、「この画面でこのボタンを押す」という具合に、誰でも分かる内容にします。1ページ程度の簡単なものでも構いません。

教育とフォロー

新しいシステムの使い方を、全員に教育します。
特にITに不慣れな従業員には、個別にサポートする時間を取りましょう。

導入後も、定期的に使用状況を確認します。
入力漏れが多い、操作が分からないという声があれば、すぐにフォローします。
最初の1ヶ月が勝負です。この期間に定着させられれば、その後は自然に運用が回り始めます。

効果測定と改善

数字で効果を確認

導入から1〜2ヶ月後に、効果を測定しましょう。
入力時間は何分削減されたか、ミスは何件減ったか、情報共有のスピードは上がったか。できるだけ数字で把握します。

従業員にアンケートを取るのも有効です。
「以前より楽になったか」「困っている点はないか」といった主観的な意見も、改善のヒントになります。

小さな改善を繰り返す

完璧なシステムは最初から作れません。
使いながら不便な点を見つけ、少しずつ改善していきます。

「この項目は不要だから削除しよう」「この選択肢を追加しよう」といった細かい調整を重ねることで、自社に最適化されたシステムになっていきます。

よくある失敗パターンと対策

失敗パターン1:完璧主義

「すべての業務を一度にデジタル化しよう」と欲張ると、プロジェクトが頓挫します。
まずは小さな範囲から始め、成功体験を積み重ねることが大切です。

失敗パターン2:現場を巻き込まない

経営者やIT担当者だけで決めたシステムは、現場に受け入れられません。
実際に使う従業員の意見を聞き、一緒に設計することが成功の鍵です。

失敗パターン3:教育不足

「新しいシステムを入れたから使ってください」だけでは、定着しません。
丁寧な教育と、困ったときにすぐ聞ける体制が必要です。

失敗パターン4:効果測定をしない

「なんとなく便利になった気がする」では、次の投資判断ができません。
時間削減、ミス削減などを数字で把握し、ROI(投資対効果)を確認しましょう。

まとめ:小さく始めて大きな変化へ

入力の一本化は、DXの第一歩として最適です。
大きな投資は不要で、効果も分かりやすく、従業員の負担軽減に直結します。

ステップ1で現状を把握し、ステップ2で入り口を決め、ステップ3で業務フローを再設計する。
この3ステップを丁寧に進めれば、必ず成果が出ます。

「紙とExcel地獄」から脱却し、従業員が本来の業務に集中できる環境を作りましょう。
それが、中小企業のDX成功への最短ルートです。


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