はじめに

これまでの「小さなDX」シリーズでは、①入力の一本化、②情報共有の仕組み化について解説してきました。
データを一箇所に集め、必要な人に届ける仕組みができたら、次は「今、何が起きているか」を見える化する段階です。

本記事では、業務プロセスを可視化し、誰でも現状を把握できる環境を作る方法について、具体的に解説します。

なぜ業務の可視化が必要なのか

見えない業務がもたらす混乱

ある印刷会社での日常風景です。
営業部長が製造部長に「A社の案件、今どこまで進んでる?」と尋ねます。
製造部長は現場に確認し、「今、校正待ちです」と答えます。
では校正はいつ戻ってくるのか、印刷はいつ始まるのか、納期に間に合うのか。それを確認するために、また別の担当者に聞かなければなりません。

このような「確認のための確認」が、1日に何度も繰り返されています。
業務の状況が見えないため、常に誰かが誰かに尋ね、その都度作業を中断して答える。
この非効率が、会社全体の生産性を下げています。

可視化されていない業務の3つの問題

ボトルネックの発見遅れが深刻な問題です。
どの工程で作業が詰まっているか分からないため、対策が後手に回ります。
気づいたときには納期遅延が避けられない状態になっていた、ということが頻繁に起こります。

属人化の進行も見過ごせません。
「あの人に聞かないと分からない」という状態が続くと、その人が休んだり退職したりしたときに業務が止まります。
また、特定の人に負荷が集中していても、周囲が気づきにくくなります。

改善機会の損失も問題です。
業務プロセスが見えていないと、どこに無駄があるのか、どこを改善すればいいのかが分かりません。
感覚で「忙しい」と感じていても、データに基づいた改善ができないのです。

可視化すべき3つの要素

業務を可視化するといっても、すべてを見える化する必要はありません。重要なのは次の3つの要素です。

1. タスクの進捗状況

誰が、何を、いつまでに、どこまで進めているか。これが見えれば、「今どうなってる?」という問い合わせは激減します。

具体的には、各タスクが「未着手」「作業中」「確認待ち」「完了」のどの状態にあるかを可視化します。
カンバン方式(カード型)を使えば、視覚的に分かりやすくなります。

2. 業務の負荷状況

誰にどれだけの仕事が集中しているか。
これが見えると、負荷の偏りに早く気づき、仕事を再配分できます。

月末に特定の人だけが残業続きになっている、新人には簡単なタスクしか割り振られていない、といった状況を数字で把握できれば、適切な対応が取れます。

3. 業績指標(KPI)の推移

売上、受注件数、顧客数、クレーム件数など、事業の健康状態を示す指標をリアルタイムで見られるようにします。

月末にならないと売上が分からない、という状態では、軌道修正が遅れます。日次や週次で数字を確認できれば、早めの対策が可能になります。

業務可視化の4つのステップ

ステップ1:可視化したい業務の選定

すべての業務をいきなり可視化しようとすると、失敗します。
まずは、可視化することで最も効果が大きい業務を選びましょう。

選定基準は3つです。
複数人が関わる業務か(例:受注から納品までのプロセス)、頻繁に進捗確認が発生する業務か、納期遅延やミスが多い業務か。これらに該当する業務から着手します。

例えば、製造業なら受注から出荷までのプロセス、サービス業なら問い合わせから契約までのプロセス、建設業なら見積から施工完了までのプロセスといった具合です。

ステップ2:業務フローの整理

可視化する前に、業務の流れを整理する必要があります。
現状の業務フローを図に描いてみましょう。

フローチャートでも、簡単な箇条書きでも構いません。
「受注→製造指示→資材手配→製造→検品→出荷→請求」というように、工程を分解します。

この作業で、意外な発見があります。
「この工程、本当に必要?」「ここで二度手間が発生している」といった無駄が見えてくるのです。
可視化の前に、業務フローそのものを見直す良い機会になります。

ステップ3:ツールの選定と設定

業務フローが整理できたら、それを可視化するツールを選びます。
中小企業で使いやすいツールを紹介します。

タスク管理ツール

Trelloは、カンバン方式でタスクを管理できる無料ツールです。
「未着手」「作業中」「完了」といった列を作り、タスクをカード形式で移動させます。直感的で、ITに不慣れな人でもすぐに使えます。

例えば受注案件ごとにカードを作り、「受注」→「製造中」→「検品中」→「出荷済み」と列を移動させていけば、すべての案件の状況が一覧できます。
カードには担当者、期限、メモを追加でき、関連ファイルも添付できます。

Asanaは、Trelloより機能が豊富で、複雑なプロジェクト管理にも対応できます。
タスクの依存関係(Aが終わらないとBが始められない)を設定できるため、工程が複雑な業務に向いています。無料プランは制限がありますが、小規模企業には十分です。

Googleスプレッドシートも、最初の一歩としては有効です。
行にタスク、列に「担当者」「期限」「状態」「備考」を記入し、色分けで進捗を表現します。無料で使え、多くの人が操作に慣れているのが利点です。

ダッシュボードツール(タスク管理になれたら発展形として)

Googleデータポータル(Looker Studio)は、無料でダッシュボードを作成できます。
スプレッドシートのデータを読み込み、グラフやチャートで可視化できます。
売上推移、受注件数の推移、部門別実績などを一画面にまとめられます。

Power BIはMicrosoftの製品で、より高度な分析が可能です。
無料版でも十分な機能があり、Excelとの連携がスムーズです。ただし、初心者には少しハードルが高いかもしれません。

Excel・スプレッドシートのピボットテーブルも、シンプルなダッシュボードとして機能します。
売上データから部門別、商品別、月別の集計を瞬時に作成でき、変化の傾向を掴めます。

ステップ4:運用ルールの確立

ツールを導入しても、使われなければ意味がありません。運用ルールを明確にしましょう。

タスク管理のルール例

新しい案件が発生したら、必ずタスクカードを作成する。
作業を開始したら、カードを「作業中」の列に移動させる。作業が完了したら、「完了」に移動させる。
これらを「その日のうちに」更新するというルールにします。

担当者が変わったら、カードの担当者欄を更新する。
問題が発生したら、カードのコメント欄に記録する。こうしたルールを決めておけば、常に最新の状況がツール上に反映されます。

ダッシュボード更新のルール例

日次で更新するデータ(売上、受注件数など)は、毎日17時までに入力する。
週次データは毎週月曜10時までに更新する、といったタイミングを明確にします。

更新担当者も決めておきます。
「営業部の売上は営業課長が入力」「製造部の生産数は製造主任が入力」というように、責任の所在を明確にすることが重要です。

段階的な導入プロセス

フェーズ1:パイロット運用(1ヶ月目)

まずは1つの業務フローだけを選び、小さく始めます。
例えば、特定のプロジェクトだけをタスク管理してみる、営業部門の売上だけをダッシュボード化してみる、といった具合です。

この期間で、ツールの使い勝手を確認し、ルールを調整します。
「この項目は不要だった」「こういう使い方をしたら便利だった」という気づきを集めましょう。

週に1回、振り返りミーティングを開き、改善点を話し合います。

フェーズ2:横展開(2〜3ヶ月目)

パイロット運用がうまくいったら、他の業務や部門にも展開します。
成功事例を社内で共有し、「こんなに便利になった」という実感を広げることが大切です。

ただし、一度にすべての部門に展開するのではなく、段階的に広げていきます。
次は製造部門、その次は経理部門、という具合に、1ヶ月ごとに対象を広げるイメージです。

フェーズ3:定着と最適化(4〜6ヶ月目)

日常的にツールが使われる状態を目指します。
朝礼でダッシュボードを見ながら話す、タスク管理ツールを見て仕事を始める、といった習慣が根付けば成功です。

この段階で、さらなる改善を加えます。
「この指標も見たい」「このグラフは不要」といったフィードバックを集め、ダッシュボードをブラッシュアップします。

また、データを活用した意思決定が増えてきたかを確認します。
「売上が目標に届いていないから、今週は営業を強化しよう」といった判断が、データに基づいてできるようになっているでしょうか。

可視化で解決できる具体的な課題

ケース1:納期遅延の削減

ある製造業では、納期遅延が月に3〜4件発生していました。
どの工程で遅れているのか分からず、気づいたときには手遅れという状態でした。

Trelloで受注案件を管理し、各工程の期限を設定しました。
期限が近づくと通知が来るため、遅れそうな案件に早めに対応できるようになりました。結果、納期遅延が月1件以下に減少しました。

ケース2:営業活動の効率化

ある営業会社では、営業マンごとの訪問件数や成約率が把握できていませんでした。
誰が頑張っているのか、誰がサポートを必要としているのか、感覚でしか分かりませんでした。

Googleスプレッドシートで営業日報を共有し、データポータルでダッシュボード化しました。
営業マンごとの訪問件数、商談件数、成約率が一目で分かるようになり、適切な指導ができるようになりました。
成約率の低い営業マンには、トップ営業マンが同行してアドバイスする、といった施策も実施できました。

ケース3:業務負荷の平準化

あるサービス業では、特定のスタッフだけが忙しく、他のスタッフは手が空いている、という状況がありました。
しかし、誰がどれだけの仕事を抱えているか見えていなかったため、適切な配分ができませんでした。

Asanaで全員のタスクを可視化し、各人が何件のタスクを抱えているかをリスト表示しました。
タスクが10件以上ある人には新しい仕事を振らない、5件以下の人には積極的に振る、というルールを決めました。
結果、残業時間が全体で30%削減されました。

よくある失敗パターンと対策

失敗パターン1:細かすぎる管理

すべてのタスクを事細かに記録しようとすると、更新作業自体が負担になります。
「トイレに行く」といったレベルまで記録する必要はありません。

対策として、記録するのは「他人に共有すべき情報」だけに絞りましょう。
一人で完結する小さなタスクは、記録不要です。

失敗パターン2:更新されない

ルールがあっても、忙しいと更新を後回しにしがちです。
気づいたら1週間前の情報のまま、という状態になります。

対策として、更新を習慣化する仕組みを作りましょう。
例えば、朝礼でタスクボードを見ながら進捗報告する、夕礼で今日の完了タスクを報告する、といった具合です。
会議と連動させることで、自然と更新されるようになります。

失敗パターン3:見るだけで終わる

ダッシュボードを作っても、眺めるだけで何も行動しなければ意味がありません。

対策として、データを見て「何をするか」まで決めましょう。
売上が目標に届いていない→営業を強化する、クレームが増えている→品質チェックを厳しくする、といった具合に、データから行動に繋げるルールを作ります。

失敗パターン4:経営層が見ない

現場だけで可視化しても、経営判断に活かされなければ効果は限定的です。

経営層が毎日ダッシュボードを見る習慣をつけることが重要です。
朝一番でダッシュボードを確認し、気になる点があれば現場に指示を出す。
この習慣が、データドリブンな経営への第一歩です。

可視化の次のステップ:予測と自動化

業務が可視化されると、次は「予測」と「自動化」に進めます。

予測:これから何が起きるかを見る

過去のデータが蓄積されれば、将来の予測ができるようになります。
例えば、毎月の売上推移から来月の売上を予測する、過去のクレーム発生パターンから要注意時期を予測する、といったことが可能です。

ExcelやGoogleスプレッドシートの関数でも簡単な予測はできますし、より高度な分析にはPower BIやPythonを活用できます。

自動化:データ入力の手間を減らす

可視化が進むと、データ入力の手間が気になってきます。そこで次は自動化です。

例えば、POSシステムと連携して売上データを自動的にダッシュボードに反映させる、メールやチャットツールから自動的にタスクを生成する、といった仕組みを作ります。
これについては、次回以降の記事で詳しく解説します。

まとめ

業務の可視化は、DXの中核です。
タスク管理ツールとダッシュボードを活用すれば、中小企業でも低コストで実現できます。

「今どうなってる?」という問い合わせをゼロにし、データに基づいた意思決定ができる環境を作りましょう。
それが、組織の生産性を飛躍的に高める基盤になります。

小さく始めて、使いながら改善する。焦らず、一歩ずつ進めていきましょう。


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