前回までに、DXの基礎から習慣化、そしてデータ活用まで、小さな会社でも実践できるDXの進め方をお伝えしてきました。
ここまで読んで、こう思われた方も多いのではないでしょうか。
「やりたいことは分かったけど、システム導入にお金がかかるよね…」
確かに、DXには投資が必要です。
しかし、国や自治体は中小企業のDX推進を支援するため、さまざまな補助金制度を用意しています。
今回は、行政書士として数多くの申請サポートを行ってきた経験から、IT導入補助金を中心に、無理なくDX投資を実現する計画術をお伝えします。
「補助金を使えば安く済む」は危険な考え方
まず最初に、よくある誤解を解いておきましょう。
補助金に対する3つの誤解
誤解①:「補助金があるから無料でできる」
現実:補助金は「後払い」です。
多くの補助金は、まず自社でシステムを導入・支払いを済ませ、その後に申請して審査を経て、数ヶ月後に補助金が振り込まれる仕組みです。
一時的とはいえ、全額を自社で負担する資金力が必要です。
誤解②:「申請すれば必ずもらえる」
現実:審査があり、不採択もあります。
IT導入補助金の採択率は年度や枠によって異なりますが、概ね50%前後。
申請すれば必ずもらえるわけではありません。
誤解③:「補助金に合わせてシステムを選べばいい」
現実:本末転倒です。
「補助金がもらえるから」という理由で、自社に合わないシステムを導入しても、使われなければ意味がありません。
補助金はあくまで「手段」であり、「目的」ではありません。
補助金活用の正しいステップ
では、どのように補助金を活用すればいいのか。正しい進め方を見ていきましょう。
ステップ①:自社の課題を明確にする(補助金を探す前に)
まず「何を解決したいのか」を明確にします。
課題の洗い出し例
- 請求書作成に毎月10時間かかっている
- 在庫管理が手書きで、欠品や過剰在庫が発生している
- 営業報告が口頭ベースで、情報が属人化している
- 顧客情報がバラバラで、フォローアップができていない
ここが曖昧なまま補助金申請すると、採択されても「使わないシステム」になります。
ステップ②:解決策(システム)を検討する
課題が明確になったら、それを解決するシステムを探します。
システム選定のポイント
- 課題解決に直結するか
「あれもこれも」ではなく、優先課題を確実に解決できるものを選ぶ - 現場が使いこなせるか
高機能でも複雑すぎると使われません。シンプルで直感的なものを - サポート体制は充実しているか
導入後のフォローがないと、トラブル時に困ります - 既存システムと連携できるか
会計ソフトなど、すでに使っているシステムとの相性も重要
無料トライアルやデモを活用し、実際に触ってから決めましょう。
ステップ③:補助金の対象かを確認する
導入したいシステムが決まったら、補助金の対象になるかを確認します。
IT導入補助金の主な枠(2026年度を前提)
通常枠(A類型・B類型)
- 補助率:1/2以内
- 補助上限:A類型150万円、B類型450万円
- 対象:業務効率化・売上向上に資するITツール
- プロセス数要件:A類型1以上、B類型4以上
セキュリティ対策推進枠
- 補助率:1/2以内
- 補助上限:100万円
- 対象:サイバー攻撃対策のためのセキュリティツール
デジタル化基盤導入枠(デジ基)
- 補助率:最大3/4以内(50万円以下の部分)、2/3以内(50万円超350万円以下の部分)
- 補助上限:350万円
- 対象:会計・受発注・決済・ECソフト
注意:制度は年度ごとに変わります。必ず最新情報を確認してください。
ステップ④:投資計画を立てる
補助金の対象になることが確認できたら、具体的な投資計画を立てます。
投資計画の要素
1. 総投資額
- システム導入費:100万円
- 初期設定費:20万円
- 研修費:10万円
- 合計:130万円
2. 補助金額(想定)
- 補助率1/2の場合:65万円
3. 自己負担額
- 130万円 – 65万円 = 65万円
4. 資金繰り
- 導入時:130万円を自社で支払い
- 補助金入金:申請から約3〜6ヶ月後に65万円入金
- 実質負担:65万円(ただし一時的に130万円必要)
5. 投資回収計画
- 月10時間の削減 × 時給3,000円 = 月3万円のコスト削減
- 年間36万円の効果
- 約1.8年で回収
この「回収計画」が補助金審査で重要視されます。
ステップ⑤:申請書類を作成する
IT導入補助金の申請には、以下のような書類が必要です。
主な必要書類
- 事業計画書(課題・導入効果・スケジュールなど)
- 賃金引上げ計画の表明書(該当枠の場合)
- 履歴事項全部証明書(登記簿謄本)
- 決算書(直近2期分)
- 納税証明書
特に重要なのが「事業計画書」です。
採択されやすい事業計画書のポイント
- 課題が具体的
× 「業務効率化したい」
○ 「請求書作成に月10時間かかり、ミスも月2件発生。担当者の残業が月15時間増えている」 - 導入効果が数値化されている
× 「作業が楽になる」
○ 「作業時間を月10時間削減、年間36万円のコスト削減。ミスゼロで顧客満足度向上」 - 実現可能性が示されている
× 「頑張って使います」
○ 「導入1ヶ月目は週1回の研修実施。3ヶ月で全社展開。担当者を2名配置」 - 会社の成長に繋がる
× 「システムを入れて終わり」
○ 「効率化で生まれた時間を新規開拓に充て、売上10%増を目指す」
審査員が「この会社なら成功しそうだ」と思える内容にすることが重要です。
できれば補助金のプロの力を借りるのが採択への近道です。
補助金活用の注意点
補助金を活用する際に、必ず押さえておくべき注意点があります。
注意点①:「交付決定前」の契約・発注は対象外
交付決定通知が来る前に契約・発注・支払いをしてしまうと、補助金の対象になりません。
「申請したから大丈夫だろう」と先走って契約すると、不採択になった場合だけでなく、採択されても補助金がもらえません。
必ず交付決定を待ちましょう。
注意点②:事業計画の実行が求められる
補助金をもらったら終わり、ではありません。
事業計画書に書いた内容(売上向上、生産性向上など)の達成状況を、数年間報告し続ける義務があります。
「もらい逃げ」はできません。
注意点③:IT導入支援事業者の選び方
IT導入補助金は、登録された「IT導入支援事業者」経由での申請が必須です。
支援事業者選びのポイント:
- 自社の業種・規模に実績があるか
- 導入後のサポート体制は充実しているか
- 申請サポートの質は高いか(丸投げではなく、一緒に考えてくれるか)
安いだけで選ぶと、導入後に困ります。
補助金以外の選択肢も検討する
補助金が全てではありません。状況によっては、他の選択肢も有効です。
選択肢①:クラウドサービスの月額利用
初期費用を抑え、月額で使えるクラウドサービスも選択肢です。
- 初期投資:ほぼゼロ
- 月額:数千円〜数万円
- メリット:資金負担が少ない、すぐ始められる
- デメリット:長期的には買い切りより高くなることも
補助金申請・採択・入金を待つ間に、まずクラウドで始めるのも一手です。
選択肢②:段階的導入
いきなり全社導入ではなく、一部から始める方法です。
- まず1部門で小規模導入(数十万円)
- 効果を確認してから全社展開(数百万円)
- 全社展開時に補助金を活用
リスクを抑えながら、確実に効果を出せます。
選択肢③:自社開発・ノーコードツール
簡単なシステムなら、ノーコードツールで自作する方法もあります。
- kintone、Notion、Airtableなど
- 月額数千円〜
- プログラミング不要で、業務に合わせてカスタマイズ可能
「既製品では痒いところに手が届かない」場合に有効です。
ただし、ノーコードだからといってCMのように誰でも使いこなすことはできません。
IT知識はそれなりに必要で、IT担当者がいないと、正直厳しいと思います。
まとめ:補助金は「手段」、目的は「成果」
IT導入補助金を活用した無理のないDX投資のポイント:
- 補助金ありきで考えない: まず自社の課題と解決策を明確に
- 投資回収計画を立てる: 「元が取れる」計画でないと続かない
- 資金繰りを考慮する: 一時的に全額負担が必要なことを忘れずに
- 事業計画は具体的に: 数値化された効果と実現可能性を示す
- 導入後の運用まで見据える: システムを入れて終わりではない
補助金は、DX投資の負担を減らす強力な味方です。
しかし、目的は「補助金をもらうこと」ではなく「会社の課題を解決し、成果を出すこと」です。
その視点を忘れずに、賢く活用しましょう。
当事務所では補助金申請のプロによる支援、IT人材不足にお悩みの中小企業様向けのIT・DX支援も行っていますので、お気軽にご相談ください。