― 黒字でも会社が消える時代に、未来をつなぐ経営判断 ―

日本の中小企業は、今まさに大きな転換点に立っています。
業績が悪いわけでもなく、むしろ長年黒字経営を続けてきた会社が、後継者不在を理由に廃業するケースが急増しています。これは決して他人事ではありません。

事業承継とは「社長が引退するための準備」ではありません。
会社の価値を次世代につなぎ、事業をさらに成長させるための経営戦略です。

なぜ今、事業承継がこれほど重要なのか

中小企業の経営者の平均年齢は60歳を超えています。
一方で、後継者が決まっていない会社は半数以上。

問題は「いつか考えればいい」と先送りされがちな点です。

事業承継は、思い立ってすぐ完了するものではありません

後継者の育成、株式や財産の整理、金融機関との調整、取引先への説明など、最低でも5年、できれば10年単位で準備するテーマです。

準備不足のまま年齢を重ねると、
・選択肢が狭まる
・条件の悪い承継になりやすい
・最終的に「廃業」しか残らない
という事態に陥りがちです。

事業承継は「守り」ではなく「攻め」の経営戦略

事業承継という言葉には、どこかネガティブな響きがあります。
しかし、実際には会社を成長させる絶好のタイミングでもあります。

例えば、
・次世代向けの商品・サービスへの転換
・IT化、DXの推進
・新しい販路開拓
こうした取り組みは、若い後継者や外部人材が関わることで加速します。

「自分が元気なうちは現状維持でいい」
この考えが、結果として会社の競争力を削いでしまうことも少なくありません。

事業承継は、経営のバトンを渡すと同時に、会社をもう一段成長させるチャンスなのです。

後継者がいない=廃業ではない

「子どもに継ぐ気がない」
「社内に後継者候補がいない」
この段階で諦めてしまう経営者は多いですが、それは早計です。

現在は、
・役員や従業員への承継
・第三者への承継(M&A)
という選択肢も現実的になっています。

特に中小企業のM&Aは、「会社を売る」というより、
会社・社員・取引先を守るための承継手段
として活用されるケースが増えています。

大切なのは、「どの方法が自社にとって最適か」を、時間のあるうちに検討することです。

事業承継を先送りすると起きる3つのリスク

事業承継を後回しにすると、次のようなリスクが顕在化します。

① 税金・財務リスク
株式や不動産の整理ができていないと、相続時に多額の税負担が発生することがあります。

② 信用力の低下
金融機関や取引先は、経営者の年齢と後継体制を冷静に見ています。
承継が見えない会社は、融資や取引条件で不利になることもあります。

③ 社員の不安・離脱
将来が見えない会社から、人材は静かに離れていきます。

これらはすべて、早めに動けば回避できるリスクです。

成功する事業承継に共通するポイント

これまで多くの事業承継を見てきて、成功している会社には共通点があります。

・経営者が「まだ元気なうち」に動いている
・専門家を早期に巻き込んでいる
・承継をきっかけに事業の見直しをしている

事業承継は、「やらされる手続き」ではなく
経営者自身が会社の未来を決める最後の大仕事です。

まとめ:事業承継は、会社と人生を守る決断

事業承継を考えることは、自分の引退を意識することでもあり、決して簡単ではありません。

しかし、
・社員を守り
・取引先との信頼を守り
・築き上げてきた会社を未来につなぐ
ためには、避けて通れないテーマです。

「いつか」ではなく、「今から少しずつ」
それが、後悔しない事業承継への第一歩です。