その「借金アレルギー」が会社を小さくしている

「融資は借金でしょ?なるべく借りたくない」

経営相談の現場で、こういった言葉を耳にすることが少なくありません。
慎重に見える姿勢ですが、実はこの「借金アレルギー」こそが、会社の成長を静かに妨げている原因になっているケースが多いのです。

融資は確かに「借りたお金」です。返済義務があります。
しかし、それだけで「融資=悪」と判断するのは早計です。
適切に使えば、融資は会社の成長を加速させる「経営ツール」になります。

この記事では、融資に対する誤解を解きながら、2026年の金利環境を踏まえた「正しい融資の使い方」を実務目線でお伝えします。


誤解① 「借金は少ないほど健全」は本当か?

「無借金経営こそが健全だ」という考え方は根強くあります。
確かに、借入がゼロであれば利息の負担はありません。
しかし、この考え方には大きな落とし穴があります。

手元資金が薄い状態での無借金は、むしろリスクです。

売上が一時的に落ち込んだとき、仕入れ代金の支払いが重なったとき、取引先の倒産で売掛金が回収できなくなったとき
──こういった場面で手元のキャッシュが尽きれば、たとえ黒字決算の会社でも資金ショートを起こします。
これがいわゆる「黒字倒産」です。

融資を活用して手元に一定の現金(キャッシュバッファー)を持っておくことは、リスクへの備えとして機能します。
返済コスト(利息)を払ってでも、会社の安全余力を確保するという考え方は、財務経営の基本中の基本です。

誤解② 「融資は苦しいときに使うもの」という思い込み

融資を「困ったときの駆け込み寺」と捉えている経営者も多くいます。
しかし、これは逆です。

金融機関は、業績が好調なときほど融資に積極的です。

苦しいときに融資を申し込むと、財務内容が悪化しているため審査が厳しくなり、条件も不利になりがちです。
一方、業績が安定・成長しているときに融資を受けておくと、有利な金利条件で、かつ希望額を確保しやすくなります。

「今は困っていないから借りなくていい」ではなく、「今が一番いい条件で借りられるタイミングかもしれない」という視点で考えることが重要です。

銀行との関係性も同じです。
晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げるのが銀行の本質とも言われますが、平時から取引実績を積み上げ、財務内容を開示し、信頼関係を構築している企業は、いざというときも銀行に頼りやすい関係になります。

誤解③ 「利息を払うのはもったいない」という感覚

利息の支払いを「損」と感じる経営者は多いです。
しかし、ビジネスの文脈で考えると、利息は「資金を先に使う権利のコスト」です。

わかりやすく考えてみましょう。

たとえば500万円の設備投資をして、年間200万円の売上増加が見込める場合、自己資金が貯まるまで2〜3年待つのと、融資で今すぐ投資するのとでは、機会損失の差は大きくなります。
年利2%の融資であれば、年間の利息は10万円程度。
200万円の売上増加効果と比べれば、十分に見合うコストです。

「利息を払いたくない」と手元の現金だけで動こうとする経営者は、成長の速度を自ら落としています。

もちろん、融資額が過大になれば返済負担がのしかかります。
大切なのは「借りすぎない」ことではなく、「投資対効果を見極めて必要な分だけ借りる」ことです。


2026年の金利環境:「借り時」を正しく理解する

日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、2025年1月には政策金利を0.5%、2025年12月には0.75%まで引き上げました。
約30年ぶりの水準です。
2026年後半にはさらなる利上げが予想されており、「金利のある世界」への対応が経営の重要課題となっています。

東京商工リサーチの調査によると、2024年の中小企業の推定調達金利は平均0.99%で、2016年以降8年連続で低下してきた水準から初めて上昇に転じました。
今後もこの上昇傾向は続く見通しです。

ただし、「金利が上がっているから借りない」という結論は早計です。
重要なのは以下の2点です。

① 固定金利と変動金利を正しく使い分ける
長期の設備資金は固定金利で金利上昇リスクを遮断し、短期の運転資金は変動金利で対応するという基本的な使い分けを実践しましょう。

② 財務内容が良いうちに動く
金利が上昇すると、財務内容の弱い企業は金利差が広がります。
東京商工リサーチの調査では、資産超過企業と債務超過企業の調達金利の上昇幅に3倍の差が出ており、財務の健全性が融資条件に直接影響することが明確になっています。
業績が好調な今こそ、有利な条件を確保するチャンスです。


融資を「戦略的に使いこなす」3つの原則

では、融資をどう活用すればよいのか。実務的な3つの原則をお伝えします。

原則1:目的と返済原資を明確にしてから借りる
何のために借りるのか(設備投資・運転資金・新事業など)、どこから返すのか(利益・キャッシュフロー)を事前に整理します。
目的が不明確なまま借りると、資金の使い途が曖昧になり返済に苦労します。

原則2:返済期間は「投資回収期間」に合わせる
設備投資であれば、その設備が生み出す収益で返済できる期間に設定することが基本です。
10年使う設備を3年で返済しようとすれば月々の負担が重くなります。
逆に、5年で回収できる投資を10年ローンにすれば、利息のコストが膨らみます。

原則3:手元流動性は月商の2〜3ヶ月分を維持する
「今は潤沢だから借りなくていい」と思っていても、業種や季節によって資金繰りは変動します。
手元に月商の2〜3ヶ月分のキャッシュを維持することが財務の安全基準と言われています。
この水準を下回りそうなときは、早めに融資を検討しましょう。


中小企業が活用できる主な融資制度(2026年版)

融資先特徴向いている場面
日本政策金融公庫政府系・低金利・固定金利あり創業期・設備投資・経営改善
信用保証協会付き融資保証協会が保証人に。財務が弱くても利用しやすい銀行融資が通りにくい場合
民間銀行プロパー融資財務内容重視。条件良好なら有利業績良好な成長期
東京都制度融資都内事業者向け。金利優遇あり都内中小企業全般

特に日本政策金融公庫は、中小企業・小規模事業者にとって最初の相談先として最適です。
低金利・固定金利・長期返済が可能で、財務基盤が弱い段階でも活用しやすい制度設計になっています。


まとめ:融資は「使いこなせる経営者」だけの武器

融資に対する3つの誤解をまとめます。

「無借金=健全」ではなく、適切な借入がリスクへの備えと成長の原資になる
「苦しいときに借りる」ではなく、業績好調なうちに有利な条件で調達する
「利息はもったいない」ではなく、投資対効果を上回る投資には積極的に資金を投じる

融資は怖いものでも恥ずかしいものでもありません。
正しく理解し、戦略的に活用することが、これからの「金利のある世界」で生き残る経営者に求められる財務リテラシーです。

「自社にとって今が借り時か」「どの融資を使えばよいか」「財務内容をどう改善すればよいか」
──こうした疑問がある方は、認定支援機関への相談を活用してください。
融資の計画から財務改善まで、一緒に考えます。