その選択、「後継者がいるかどうか」だけで決めていませんか?
「息子がいるから親族内承継で」「後継者がいないからM&Aしかない」
――多くの経営者が、こうした単純な二択で事業承継の方向性を決めてしまいがちです。
しかし、事業承継の方法選びは、もっと多角的な視点が必要です。
2025年には中小企業のM&A件数が過去最高を記録し、2026年も増加トレンドが続くと予測されています 。
一方で、第一候補として「親族内承継を希望する」経営者は依然として61.1%に上ります。
親族内・第三者を問わず、どちらの手法にも固有の強みと落とし穴があります。
この記事では、認定支援機関の視点から両手法を徹底比較し、自社の状況に合った選び方についてコメントします。
事業承継の主な3つの手法
- 親族内承継:子・配偶者・兄弟など血縁者に引き継ぐ最も伝統的な方法
- 親族外承継(役員・従業員承継):社内の役員や社員に引き継ぐ方法
- 第三者承継(M&A):社外の企業や個人投資家・ファンドに譲渡する方法
本記事では特に経営者が悩みやすい「親族内承継」と「第三者承継(M&A)」に焦点を絞り、それぞれを深掘りします。
親族内承継のメリット・デメリット
メリット
① 承継スケジュールを柔軟に組みやすい
後継者を早期に選定できるため、引退時期や権限委譲のペースを経営者自身でコントロールできます。
「5年後に引退」「まず副社長として経験を積ませる」といった段階的な承継が可能です。
② 経営理念・社風が伝わりやすい
幼少期から会社を身近に感じてきた親族後継者は、創業者の価値観や経営スタイルを自然に吸収していることが多く、従業員・取引先からも受け入れられやすい傾向があります 。
③ コストを抑えやすい
M&Aに比べ、仲介手数料やデューデリジェンス(財務・法務調査)の費用が発生しにくく、総合的な金銭的負担が軽くなります。
生前贈与や事業承継税制を活用することで、税負担の軽減も図れます 。
デメリット
① 後継者の適性・意欲の問題
親族だからといって、必ずしも経営に向いているとは限りません。
また、後継者候補が承継を望んでいないケースも珍しくなく、無理に進めると会社の衰退につながりかねません 。
② 相続トラブルのリスク
株式や事業用資産を特定の親族に集中させると、他の相続人との間で争いが起きる場合があります。
遺言書の作成や株式の整理を早期に行うことが不可欠です 。
③ 能力面でのハードルが生じることも
中小企業の経営には、財務・営業・マネジメントなど幅広いスキルが求められます。
後継者育成には時間と計画的な教育投資が必要です。
第三者承継(M&A)のメリット・デメリット
メリット
① 後継者不在でも会社を存続させられる
社内・親族に適任者がいなくても、全国規模で買い手候補を探すことができます。
事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関も積極的に活用できます。
② シナジー効果による企業成長が期待できる
買い手企業のネットワーク・ノウハウ・資金力と自社の強みを組み合わせることで、単独では難しかった成長が実現することがあります。
特に「技術は優れているが販路が弱い」「人手不足が課題」といった会社には大きなチャンスです。
③ 創業者利益が得られる
株式や事業を売却する対価として、まとまった現金を手にできます。
これは老後の生活資金や、次のビジネスへの再投資として活用できます 。
デメリット
① 手続きが複雑・費用がかかる
買い手探しから交渉・デューデリジェンス・契約まで、プロセスが多く、仲介費用は数百万円以上かかるケースも珍しくありません 。
また、まとまった時間と労力も必要です。
② 従業員・取引先の不安・反発
「社名が変わる」「経営方針が変わる」という不安から、優秀な従業員の離職や取引先の離反が起きることがあります。
事前の丁寧な説明と信頼構築が欠かせません。
③ 希望通りの相手が見つかるとは限らない
買い手市場が成熟してきた2026年現在、買い手側の選別眼も厳しくなっています。
「財務状況が不透明」「依存顧客が多い」といった課題がある会社は、買い手が見つかりにくかったり、低い評価額になったりするリスクがあります。
2つの手法を徹底比較
| 比較項目 | 親族内承継 | 第三者承継(M&A) |
|---|---|---|
| 後継者の選定 | 親族から選定・早期育成可能 | 社外からマッチング |
| 承継コスト | 比較的低い | 数百万円以上かかる場合も |
| スケジュール | 柔軟に調整しやすい | 交渉次第で長期化も |
| 税務 | 事業承継税制で猶予・免除可 | 譲渡所得税が発生 |
| 経営理念の継続 | 引き継ぎやすい | 買い手の方針に依存 |
| 創業者利益 | 基本的に得にくい | まとまった現金が得られる |
| 従業員・取引先 | 受け入れられやすい | 不安・混乱が起きやすい |
| 後継者不在時 | 対応困難 | 唯一の有力手段になり得る |
自社に合った選び方:4つの判断基準
どちらの手法が正解かは、一概には言えません。
以下の4つの観点から自社の状況を整理してみましょう 。
① 後継者候補の有無と意欲
まず「親族・社内に、経営を任せられる人物がいるか」を冷静に確認しましょう。
意欲・適性ともに備わった候補がいれば、親族内・社内承継を優先して検討します。
② 財務・事業の状況
財務が健全で収益力がある会社ほど、第三者承継時に高い評価額が期待できます。
逆に財務上の課題が多い場合は、まず経営改善を行った上で承継先を探すことが得策です。
③ 経営者自身のゴール設定
「会社の名前と従業員を守りたい」なら親族内・社内承継が向いています。
「引退後の生活資金を確保したい」「次の事業に再挑戦したい」なら、M&Aによる現金化が選択肢に入ります。
④ 残された時間
事業承継の準備には最低でも3〜5年かかります。
健康上の問題や急な環境変化に備え、「時間がある今」動き始めることが最大のリスクヘッジです。
まとめ:「どちらが正解か」より「何を大切にするか」
親族内承継にも第三者承継にも、それぞれの強みと弱みがあります。
大切なのは「後継者がいるかどうか」という条件だけで決めるのではなく、会社の将来・経営者自身のビジョン・財務状況を総合的に判断することです。
認定支援機関に登録している専門家は、財務分析・事業承継計画の策定・補助金の活用まで一貫してサポートできます。
「どちらの選択肢が自社に向いているかわからない」という方は、まず専門家への相談から始めましょう。早めに動くほど、選択肢は確実に広がります。
認定支援機関×行政書士
お問い合わせ・ご相談を承っております。
Tel.03-6457-3276
[営業時間]9:00 – 18:00 土日祝日も対応可
✉ info@iij-office.com
原則、2日以内に返信いたします
